テニスで肩が痛くなった経験はありませんか?
私の友人は肩を痛めて、サーブを打つ時はどこかぎこちなく、見ているだけで辛そうでした。
今回はなんと
理学療法士の人に肩の痛みの原因と正しい対処法について記事を書いてもらいました!
今回の記事では、テニスにおける肩の痛みの種類や対策、治療法などについて触れていきます。
すでに肩が痛む人、これから肩を痛めたくない人の参考になればうれしいです。
本記事でわかること!
- 肩の怪我の種類
- 肩の怪我の症状
- 肩の痛みの原因
- 症状のチェック方法
- 肩の怪我の治療法
- 肩を痛めないための対策
目次
はじめに
テニスは、サーブ・スマッシュなど、手を頭上に上げることが多いオーバーヘッドスポーツです。
そのため、肩にも大きなストレスがかかります。
フォアハンド・バックハンドストロークでは大丈夫ですが、サーブやスマッシュでは肩が痛いという人も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、テニスにおける肩関節の障害について、代表的な疾患や症状、治療法などについて触れていきます。
上方関節唇損傷(SLAP損傷)
肩関節は動きが大きい関節です。動きが大きいということは、関節の構造が緩いと解釈することができます。(脱臼しやすいという意味ではない)
肩関節は構造的に骨での安定性は低く設計されています。
肩関節は、上腕骨と肩甲骨の関節窩(かんせつか)で構成されています。
関節窩は、お皿のような構造になっており、骨の構造的にはあまりしっかりしていません。
そのお皿のような関節面の上に、上腕骨の骨頭の丸い部分が乗っかっているため、広い可動域を動かすことができます。
しかし、お皿の上に玉が乗っているだけでは、非常に不安定になってしまいます。
それを補うパッキンのような構造になっているのが、関節(かんせつしん)と呼ばれるものです。
SLAP損傷は、その関節唇の上方が傷ついた状態のことを言います。
症状
テニスにおけるSLAP損傷の症状は下記のとおりです。
・サーブやスマッシュの動作時に痛みが出る
・肩に引っかかるような感じがする
・肩を動かすとコリコリ音がする
・日常生活では平気だが、サーブやスマッシュで痛みが出る
このような症状があると、全てがSLAP損傷しているというわけではありませんが、可能性は否定できません。
原因
この関節唇の上方には、力コブの筋肉(上腕二頭筋)と靭帯がくっついています。そのため、強い牽引力や捻れる力が加わることによって、損傷が起きやすいとされています。
原因の一つとして、オーバーユースがあげられます。
関節唇にくっつく上腕二頭筋に強い力が加わり、関節唇が引っ張られます。
この強い引っ張る力が頻回に加わることによって、関節唇は損傷したり、骨から剥がれたりしてしまいます。
このようなスポーツでの損傷以外にも、交通事故や転倒などで肩に強い外力が加わることにより損傷することもあります。
治療法
基本的には、手術をしない保存療法が選択されることが多いです。
肩関節の障害は、肩だけの問題ではなく、全身の使い方の問題であるケースが多いとされています。
そのため、リハビリテーションの処方が出るところも多いです。
リハビリテーションでは、手の使い方だけでなく、体幹機能や下肢の使い方、足や体幹、肩甲骨周りの筋力の改善を図ります。
全身の使い方を改善することによって、肩にかかるストレスを減らしていくことがメインの治療法になります。
SLAP損傷が軽度の場合は、しばらく運動をやめて安静にすることにより症状が改善する場合もあります。
しかし、損傷がひどい場合には、手術になるケースもあります。
損傷が酷くなると、損傷した部位を切除したり、縫合したりして関節唇の機能を戻していきます。
手術をした場合には、医師の指示にもよりますが、復帰までには約6ヶ月かかります。
インピンジメント症候群
サーブなどのオーバーヘッドスポーツでのインピンジメント(衝突)は、主に肩甲上腕関節(いわゆる肩関節)で生じます。
細かく分けると、肩甲上腕関節の後上方と前上方でインピンジが生じます。
肩関節の動きの問題だけではなく、肩甲骨の動きや体幹の柔軟性も関与してくる幅広い要素が必要な部分になります。
症状
インピンジメント(衝突)が発生したタイミングで、痛みが出ることが特徴です。
後上方のインピンジメントでは、サーブ・スマッシュのインパクトの瞬間や、手を上にあげた時、
前上方のインピンジメントでは、テイクバックの最終やフォロースルーにて痛みが生じます。
逆に、インピンジメントが生じない日常生活などの場面では、痛みは生じないことが特徴です。
原因
後上方のインピンジメントの場合
サーブのインパクト前〜インパクトの瞬間にかけて、肩が広がる(肩関節の外転・外旋と言います)範囲は最大になります。
この時に、上腕骨と肩甲骨の間に筋肉が挟み込まれて筋肉が損傷します。
ここで挟み込まれる筋肉は、棘上筋(きょくじょうきん)や棘下筋(きょくかきん)が挟み込まれると言われています。
肩の後面の筋肉の柔軟性が低下すると、ちょうど錠剤の薬を押し出すような形で肩の付け根が前方へ押し出されてしまいます。
このような状態になると、肩を広げて捻った時(肩関節の外転・外旋)に、挟み込みが起こります。
さらにこの状態が長く続くと、肩関節前方の組織が伸ばされやすくなり、さらに後上方で挟み込みが生じやすい状況が作られるという悪循環に陥ります。
前上方のインピンジメントの場合
主にトスをあげて、テイクバックが最大になった時や、インパクト後のフォロースルーの時に生じる挟み込みです。
挟み込まれる組織は、肩甲下筋や棘上筋、上腕二頭筋長頭などです。
フォロースルーで痛みが生じている症例では、肩の前上方の組織が緩くなり、上記の組織が損傷を受けたと考えられています。
前上方のインピンジメントも、後上方のインピンジメントと同様、肩の後方の組織が硬くなることによって、肩の付け根の位置がズレ、損傷が発生するメカニズムになっています。
治療法
インピンジメントが生じている原因を明らかにし、再びインピンジメントが生じないように、肩甲骨や体幹、肩関節そのものの柔軟性を取り戻していくことが必要です。
特に重要になるのは、肩甲骨の動きの良さです。
肩甲骨の動きが硬いと、体のねじれも少なくなり、さらに手打ちになるという悪循環に陥ります。
また、肩関節そのものの柔軟性も必要になってきます。
特に肩関節後面の柔軟性が重要になってきます。
インピンジメントの原因の部分でも触れましたが、肩関節後面の柔軟性が低下すると、肩の付け根が前方に押し出されます。すると、サーブやスマッシュの動作時に挟み込みが生じる原因になります。
インピンジメントは、動きの悪さが元の原因なので、手術で良くなるという考え方はしません。
筋力強化やストレッチ、動作練習で動きを改善していきます。
ストレッチは後述します。
腱板損傷
腱板損傷(けんばんそんしょう)とは、肩周りの筋肉の損傷です。
中高年の方で、肩が痛くて上がらなくなった、四十肩や五十肩と言われた、という方もいると思います。このような方も、腱板損傷の一部の可能性があります。
では、そもそも腱板とは何でしょうか?
腱板とは、肩の付け根を取り囲む筋肉の総称のことです。
具体的な筋肉の名前としては、棘上筋、棘下筋、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)の4つの筋肉のことを言います。
症状
肩を動かした時に特定の動きで痛みが生じます。
損傷する部位によって、前から上げる時だけ痛みが生じる人もいますし、横から上げた時だけ痛みが生じる人もいます。
損傷の程度が軽ければ、肩を上の方まで上げた時だけ痛いという方もいます。
損傷が重度になってくると、腕を下ろしているだけでも痛いと言う方もいますし、夜に寝ていられないほど痛いという方もいます。
症状の程度に差があるため、なかなか一言では症状を言い切ることは難しいです。
原因
原因は様々ですが、テニスの動作に限って言うと、上記で説明したインピンジメントで徐々に筋肉が損傷していくことが考えられます。
まれに、転倒で手をついた時に運悪く腱板損傷するなんてことも考えられます。
治療法
損傷の程度によって治療方法は異なります。
損傷が軽度であれば、痛み止めを服用しながら、リハビリテーションにて円滑な動きを取り戻すことが可能です。
損傷が重度になると、手術が必要になります。切れてしまった筋肉を縫い合わせて、機能を取り戻します。
手術をした場合は、しばらくの間、脇を空けておく装具を装着し、縫合した筋肉に負担がかからないようにしていきます。
予防ストレッチ
肩関節の障害を予防するためには、肩甲骨の動きを良くすることが不可欠です。
また、肩関節後面のストレッチや、脇腹の筋トレも重要になります。
自宅でもできる、肩甲骨の動きをよくするストレッチや筋トレをご紹介いたします。
肩関節後面のストレッチ
肩の後面の組織の硬さがインピンジメントの原因になるので、イラストのように肩関節後面の組織を伸ばしていきます。
30秒を目安にしてしっかりと肩関節後面の組織を伸ばしていきましょう。
1日4回以上を目安にしてストレッチを行いましょう。
肘丸体操
肩甲骨を大きく動かす運動です。
①肘を曲げて、肩を触れたり襟を持ったりして支点を作ります
②肘を円を描くように上や下、前、後に大きく動かします
痛みが出る部分は無理をしないようにしてください。
上半身がある程度動いてもいいので、肩甲骨を大きく動かすことがポイントです。少し大げさに行うくらいで良いです。
20周2setを目安にして行います。
四つ這いの体幹回旋運動
①四つ這いになり片方の手を後頭部に置きます
②上半身を回旋させながら肩甲骨を動かしていきます
筋トレの要素というよりかは、動きを良くする練習の傾向が強いです。
体幹の回旋動作と肩甲骨の動きの協調性を獲得する目的でこの動作を行なっていきます。
肘を持ち上げた時に、肩甲骨が背骨に近づくように動かすことがポイントです。
20回2setを目安にして動作を行います。
サイドブリッジでの体幹回旋動作
先ほどの「四つ這いでの体幹回旋運動」の、サイドブリッジバージョンです。
サイドブリッジをしながらなので、四つ這いよりも強い体幹機能が求められます。
この姿勢での体操が大変であれば、膝を曲げて膝を支点にして、体幹回旋運動を行うと負荷量を減らしても大丈夫です。
足や肘の下に不安定なもの(BOSUやバランスディスク)を置くと、負荷量をさらに上げることができます。
10回2setを目安に行います。
バランスボールを使った体幹回旋運動
バランスボールを使った筋トレです。
肩甲骨の安定性を出すためには、同じ側にある脇腹の筋肉の機能も重要になります。
脇腹の筋肉は体幹を回旋させる筋肉なので、体を捻る動作をすることによって鍛えられます。
①手を大きく広げて上半身を安定させます。
②バランスボールを足で挟み込み、左右に倒していく
床にバランスボールをつけないようにすることによって、負荷量を上げることができます。
できるだけ肩が浮かないように、下半身をしっかりと捻っていきましょう。
まとめ
テニスで生じる肩の障害についてまとめてきました。
肩の障害はかなり奥が深く、肩の機能だけでは語れない部分がかなり多くあります。
ここまでくると、素人の方には何が悪くて肩に痛みが出ているのか、分からなくなってくると思います。
第3者の目線で、しかも専門家の視点で、フォームや肩の状態を評価してもらう方が症状改善の近道になると思われます。
症状がひどくなると、治療も長引き、競技ができない期間も長くなります。
早めに治療を開始し、痛みの無いテニスライフが送れるようにしていきたいですね。
【参考文献】
尾崎尚代, 投球障害肩―インピンジメント症候群, PTジャーナルvol.54 No.5, 医学書院, 2020
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